8月の第一回に続き、2025年9月18日(木)無印良品銀座6階の特設会場で、第二回「結ぶ言葉 ライトハイク」を実施しました。今回のゲストは、英語・バイリンガル落語パフォーマーの琉水亭はなびさん。
はなびさんは「バイリンガル落語」の創始者(家元)になります。
ライトハイクに対しての俳句。そして、バイリンガル落語に対しての落語。
伝統文化(俳句・落語)への敬意は忘れず、独自の工夫を加えて、もっと遠くまで届けらるようにする。その思いは、同じです。
まずは頭のストレッチに、恒例の辞書(語釈がユニークなことで有名な「新明解」)を使った、語釈クイズからスタート。記載された言葉の意味(語釈)を読み上げて、なんの言葉かを答えてもらう、クイズです。挙手をいただかずに、思い立ったら、すぐに言葉にして出してもらうのですが、これが大事。
大体の人は、苦手ですよね。自ら声を上げること。それを最初に促すことは、頭のストレッチ以上に、その場の空気を温めるのに非常に効果的です。この後行う実作では、実際に「自分の文字で自分の言葉を書いてもらう」ことを大切にしていますが、「自分の声で自分の言葉をよんでもらう」も同様に、「詩」に欠かせない要素と考えています。
ストレッチを経て、実作に入ります。
今回、前半に単発題で3題。後半「三つ編み」形式で3題。
計6回の実作に挑んでいただきました。全て、創作時間は【5分】です。
単純計算で【計30分】創作の時間を持ってもらったことになりますが、このクリエイティブの時間はとても心豊かな時間です。使う道具は「言葉」だけですから、誰でもできる。言葉で世界を創る。実は、すごいことをやっているのです。
最初のお題(上の句)「秋のはじまり」(6文字)
以下の作品(下の句)などが出ました。上下、併記します。
秋のはじまり
たべまくる!
秋のはじまり
衣替部屋荒れ
秋のはじまり
さんまとくり
ライトハイクの唯一のルールである、上下文字数揃えは、いわゆる韻文における「韻を踏む」「定型:575・77」と同じで、かたちが作動して意外な面白さを描くための仕掛けです。57577は日本語だけでしか使えないので、海外用に設定したルールです。例えば、英語同士の場合は、上下単語数揃えとなります。今回も一例として
The beginning of Autumn
という上の句を用意していました。参加者の方に英語でも作っていただき
I am full !
と回答がありました。日本語に訳せば
秋のはじまり
お腹いっぱい
ですね。
上に挙げた「衣替部屋荒れ」も「さんまとくり」も<6文字>というルールがあったから、普段使わない言葉遣い(使い方)で出てきたフレーズです。これが、面白い。AIでは出せないですね。人間ならではの苦し紛れが、とても良いのです。
なお、第一題で、いちばん参加者の皆さんの歓声があったのが以下の作品です。
秋のはじまり
酷暑日の終点
詩ですねえ。
二題目は、はなびさんからの出題。
お題(上の句)「ぬか漬けできた」(7文字)
はなびさんは、無印良品さんの「ぬか漬け」キットが大好きとのことでこちらのお題にしました。その場、その時間にゆかりのある言葉(お題)を出すのは、いつも意識してやっています。季語と同様、「今」を大事にしたいからです。
出てきた言葉から、3つ引かせてもらいます。
ぬか漬けできた
ごはんも炊けた
ぬか漬けできた
皿は古伊万里で
ぬか漬けできた
あなたのために
三題目は「銀座でひとつ」(6文字)
昭和歌謡「銀座の恋の物語」の歌詞からです。
「東京でひ〜と〜つ、銀座でひ〜と〜つ」と言うフレーズですね。
はなびさんはこのお題を見てすぐに「新橋でふたつ」と言う意味不明な回答を出されていました。でも、いいですね。何がひとつ、ふたつなのか明示しない。気になる。気になることは、そこに詩の要素があるということです。
こちらも3つ引きます。
銀座でひとつ
出会いは無限
銀座でひとつ
ふたりの世界
銀座でひとつ
どんぐり拾う
今回出した3題について、AI(chat-GPT)に【「◯◯◯」に結ぶ、◯文字のフレーズは?】と言う質問をして、それぞれ事前に下の句例を出していました。
秋のはじまり
風が涼しくて
秋のはじまり
虫の音ひびく
秋のはじまり
月がきれいね
ぬか漬けできた
ひと口食べてみ
ぬか漬けできた
味がしみてるね
ぬか漬けできた
心もほっこりね
銀座でひとつ
心が和む場所
銀座でひとつ
大人の時間よ
銀座でひとつ
街が輝いてる
文章生成AIは「ある単語に対して次に続く可能性が高い単語や文字を予測するもの」です。つまり、「続ける」「つける」は得意。でも言葉を「結ぶ」や、言葉で「遊ぶ」という概念はありません。もちろん、そう遠くない未来、AIが進歩して「結ぶ」の能力も得るかもしれません。それでも、AIの元となるのはそれまでのデータ。どこかで聞いた、見たことあるフレーズ。いわば、「大いなる月並み」なのです。上記の人間が作ったものと、AIが作ったものを比べるとよく分かります。生きている言葉は、やはり、生きている人間でしか結べないと私(ライトハイク協会代表理事)は考えています。
さて、後半は、ひとつのフレーズを起句にして、そこから3回結んで、皆で四行詩をつくる「三つ編み」(+はなびさんによる、小噺化)です。
今回の起句(最初のお題)は
素のままで出かけよう
10文字です。これは第一回同様、無印良品さんの商品コピー(宣伝文句)からいただきました。皆さん、コピーライターになった気持ちで、この言葉に自分の言葉を5分で結びます。私とはなびさんが、「好き」と思った作品を2作品選びました。
素のままで出かけよう
昔の自分を忘れる為に
素のままで出かけよう
家族になった君と一緒
どちらも素敵な結ぶ言葉です。作者さん含めて、参加者の皆さんにどちらが好きか挙手していただいて、選ばれたのは「家族になった君と一緒」の方でした。何度も申し上げていますが、詩には優劣はないと考えています。あるのは、受け手(読者)の好みのみ。その好みも時間を経ると変わるもので、絶対なものではありません。
次は「家族になった君と一緒」をお題にして、それに結ぶ言葉を皆で創作していただきます。そこから、多数決で選ばれたのが「宇宙人に会いに行こう」でした。
突然の宇宙人!
いいですね。この飛躍。
作者さんにインタビューすると、「一緒に宇宙人に会いに行ける日が来るまで、長生きしよう」という意図とのこと。素敵ですね。「長生きしよう」を違う言葉で表現されたのです。これが詩作です。
そして次は「宇宙人に会いに行こう」がお題となります。そこから最終的に選ばれた言葉を加えて、以下の四行詩が生まれました。
素のままで出かけよう
家族になった君と一緒
宇宙人に会いに行こう
月がきれいな夜だから
3回結ぶ際には毎回、「目の前の直前のフレーズだけを見て、それ以前のものは忘れてください」とお願いしました。それでも、編み上げたものは、全体的にゆるく結ばれている。これが、三つ編みの面白さです。さらに、ちゃんと、起承転結になっているんですね。とりわけ「宇宙人」の転は見事です。言葉の不思議な力を感じます。

会のハイライトは、はなびさんに四行詩を小噺にして口演していただきました。
はなびさん、なんと、「素のまま」を「酢のまま」に変換されました。意表をつかれて爆笑。同音異義語は、ダジャレ、地口、今も昔も、簡単に詩(飛躍)を生み出す必殺技です。
ライトハイクは、スマホ時代のUIを意識して、上下文字数揃えたところもあります。それは、一粒で二度美味しい効果を生み出しました。音読する際には、その読み手のリズムで読む、正真正銘の自由詩になるのです。
切り方、間の置き方は、人それぞれ。
私のリズムでなら、このように音にします。
素のままで出かけよう
家族になった
君と一緒
宇宙人に会いに行こう
月がきれいな
夜だから
参加者の皆さん、はなびさん、そして、無印スタッフの皆さん、ありがとうございました!
楽しかったです。本当に。