ライトハイク・パシュート(光陵高校文芸部)

ライトハイク・パシュート(光陵高校文芸部)

全国規模の短歌大会(短歌甲子園等)で今や常連校となった神奈川県立光陵高校文芸部さんで「ライトハイク」を実施するのはこれで3回目になります。光陵高校文芸部は顧問の宮﨑先生の熱意に部員さんが応えて、日々、感性が磨かれています。

今回の三度目(2025年9月29日)の訪問の目的は、詩作の団体競技「ライトハイク・パシュート」のルールを完成することです。

すでに2回、パシュートを試行させていただき、部員の皆さんそして、宮﨑先生のご協力により「これでいこう」という形が出来上がりました。今回は、そのルールに則って、パシュートを実際にやってみるために伺いました。

1チーム3名(先鋒・中堅・大将)での対戦形式なので、少なくとも6名の参加者がいないとシュミレーションができません。改めて光陵高校文芸部さんにはご協力をいただいたことに感謝いたします。

パシュート実施に先立ち、冒頭、俳人の長谷川櫂さんに助言をいただき、「ライトハイク」の立ち位置を以下に定めたことを、皆さんに宣言しました。

ライトハイクは、自身が二行詩ということもあり、2つのラインを同時に目指します。
ライト層とガチ勢の二極バランスに悩んでいたところもありましたが、櫂さんのおかげで、どっちを取るのではなく、どっちも取るという、二極調和で今後、臨みます。

 

上の句を糸口として、下の句を結ぶ。
特定の誰かと二人で、もしくは、一人で、究極の結びを追求する二行詩として。 


×

 
上の句を呼水として、下の句を付ける。
不特定多数、広くあまねく、言葉の面白さを体験してもらう雑俳として。

 

この上下を結ぶのが、まさに、ライトハイクです。

 

普段、イベントや病院でライトハイクをする際には、まず、辞書の語釈を読み上げて、なんという言葉かを当ててもらう、語釈クイズ等、「言葉」を使った色々な頭のストレッチから入ります。この日は、穴あき俳句クイズ。そこに入る言葉は何かを答えてもらうクイズです。

この日、出題した俳句は、夏目漱石の俳句から。

 

配達ののぞいていくや秋の◯

 

この穴あき俳句クイズは、オリジナルより良い句ができるかもしれないという面白みがあります。今回もオリジナルに負けずとも劣らない、一字が出てきて唸りました。

さすが、文芸部さん!

漱石が詠んだ正解は、

配達ののぞいていくや秋の水

です。

生徒さんがだした言葉は、なんと「鈴」!!!

 

配達ののぞいていくや秋の鈴

 

秋の鈴と聞いて、軒先にある鈴かと思ってしまいましたが、よくよく考えたら、鈴虫じゃないですか。オシャレですね!!!

漱石のオリジナル「秋の水」が月並みに思えてくるくらいです。秋の水はAIでも出せますが、秋の鈴は、AIにはたぶん、出せません。素晴らしい。

 

団体戦(パシュート)に入る前に、個人戦(単発題)として2題、出題しました。全ての作品を紹介したいのですが、1作だけ紹介します。

出したお題は、尾崎放哉の有名な自由律俳句

咳をしても一人

こちらを上の句と見立てて、同じ7文字で、自分の言葉を結んでもらう形になります。これは上記で示した、

上の句を糸口として、下の句を結ぶ。
特定の誰かと二人で、もしくは、一人で、究極の結びを追求する二行詩として。 

の実践です。放哉と時空を超えて、結ぶ二行詩。ポイントは、上の句は、そこに詩がある、自由律俳句として成立しています。新たに結ぶ下の句も、たとえ上の句がなくても、そこに詩がある自由律俳句として成立すること。そして(これが一番大事なわけですが)上と下を結んで、第三の新たな詩が生まれること。これを目指します。

以下の作品が生まれました。

 

咳をしても一人  放哉

寝癖の方向に月  光陵

 

ひとりの部員さんが出した下の句ですが、仮に「光陵」と号します。このように、究極の二行詩としてのライトハイクは、「作家性」も大事にします。ちゃんと独り立ちできる文芸として。

さて、いよいよ、ライトハイク・パシュートです。

ルールを以下に記します。

2025年9月29日18時 神奈川県立光陵高校文芸部で完成

【ライトハイク・パシュート】 


————————————————————————————-
1チーム:3名   

1試合:3回の創作(+延長戦) 都度、勝敗を決める。

(勝ちポイント)
1回目 1ポイント
2回目 1ポイント
3回目 2ポイント
延長戦(同点の場合) 1ポイント(勝敗決着)


<予選>
チーム3名を、先鋒・中堅・大将と、役割分担させる。

1回目(5分)  先鋒戦  1ポイント
2回目(5分)  中堅戦  1ポイント 
3回目(5分)  大将戦  2ポイント
延長戦(4回目)(10分) 勝敗を決める 1ポイント

先鋒戦、中堅戦、大将戦は、各5分。
延長戦に入った場合のみ、3人全員で1フレーズを考える。10分。


<決勝トーナメント>
全て(1回目、2回目、3回目、延長戦)
3人全員で1フレーズを考える

1回目(10分)   1ポイント
2回目(10分)   1ポイント 
3回目(15分)   2ポイント
延長戦(4回目)(15分) 勝敗を決める 1ポイント



★【1回目】 1ポイント
2チームに共通の【お題(起句)】を出し、それぞれ、それに結ぶ1フレーズを先鋒(予選)、チーム(決勝トーナメント)で考える。
ルールは【お題と同じ文字数で答える】のみ。

それぞれ(承句)を提示。

起句
承句

の結びについて、勝敗をジャッジする。(観ている人たちの多数決)



★【2回目】 1ポイント
(承句)を交換。
(承句)に結ぶ(転句)を中堅(予選)、チーム(決勝トーナメント)で考える。

それぞれ(転句)を提示。

承句
転句

の結びについて、勝敗をジャッジする。

起句との関連性は問いません。創作も鑑賞も起句は一旦、忘れます。

あくまで、承句と転句の結びを評価する。

(観ている人たちの多数決)




★【3回目】 2ポイント

(以下のふたつのルールのうち、どちらかが発動)

・1回目、2回目、ひとつのチームが連続ポイントを獲得した場合は
0点のチーム側に、全(起・承・転)取っ替えするか、しないか、決める権利を与えます。
どちらかを選択できる。

予選では当事者の大将が決め、決勝トーナメントではチームのみんなで決める。

・1回目、2回目、それぞれのチームがポイントを分け合った場合は
1回目でポイントを取ったチームの大将が

全(起・承・転)取っ替え or   替えずにそのまま

を決める「くじ」を引きます。
自分では選べません。
取っ替えることになるかもしれないし、そのままかもしれない。
こちらは「運」です。

ゲーム性が増すことに加え、
ライトハイク協会では【詩に優劣はない】と考えているため
あくまで勝敗は<時の運>でもあるという要素を入れました。


以上のルールを経て「結句」に臨みます。
全体に結ぶ(結句)を大将(予選)、チーム(決勝トーナメント)で考える。
それぞれ(結句)を提示。

起句
承句
転句
結句

全体(四行詩)について、勝敗をジャッジする。(観ている人たちの多数決)


★【同点の場合は、延長戦】1ポイント(勝敗決着)

結句やりなおし(結び直し)3回目にそれぞれ出した結句は消去。

起句
承句
転句

全てを交換して、改めての結句(全体の四行詩)勝負。
チーム全員で、1フレーズを考える。

観ている人たちの多数決で、勝敗が決まる。
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最大の特徴は「3人で1フレーズを考える」ということ。

私(ライトハイク協会代表)は、常に疑問を持っていました。

詩は一人で作るものと誰が決めた?

決まっていないのだから、複数人で作ってもいいじゃないか。

むしろ、一人で作るより、その先の言葉が出てくるのではないか。

きっと、そうだ。

その強い信念のもとに、それを証明するために考えたのが、このライトハイク・パシュートです。

AI時代だからこそ、「みんなで考える」「みんなで作る」人間らしくて、いいじゃないですか。

今回、4人チームを4チーム作り、同じ起句で、2試合同時開催しました。

その1チームに私も混ぜてもらいました。

想像はしていましたが、やっぱり、ものすごく楽しかったです。

一人で苦しんで作るより、みんなで楽しく作れるならば、私は後者を選びたい。

創作時間は団体10分と決めていましたが、楽しいと時間はすぐに過ぎるもの。あっという間で、創作時間を急遽15分に延長したほどです。ただ、これは当事者は良いですが、観ている人は退屈しますので創作時間に関しては、一考する必要があります。これから、パシュートの数を色々な場でこなして、最適時間を導き出したいと思います。今のところは、基本10分。大事な結び(2ポイント及び勝敗を決する)のみについては15分かと思っていますが、それは最後の1試合のみの<決勝戦特別ルール>にして、それ以外は【個人5分&団体10分】に統一かというのが良いかと感じています。

この日、4チームに出した起句は、長谷川櫂さんからいただいた

あなたの好きな人を見に行く

ここから最終的にフレーズがいったりきたりで、4チーム、4編の詩が生まれました。

代表して、1チームの作品を紹介します。

 

あなたの好きな人を見に行く

新宿、ビル群、仰いでも、雨

景品飛び越え、権太坂、晴れ

あなたの好きな虹を見に行く

 
ライトハイクは自由詩ですから、結び終えたら枠は取り払って、自由に組みます。
以下に整(清)書します。

 

あなたの
好きな人を見にいく

 

新宿、ビル群、
仰いでも、

 

京浜飛び越え、
権太坂、

晴れ

 

あなたの好きな
虹を見に行く

 

ライトハイクは、音ルールのある韻文ではありませんが、だからこそ、声に出して音にする際の、間の取り方、リズムは読み手に委ねられます。上記の区切り方はあくまで一例です。自分の好きなリズムで味わってもらいたいのです。

ライトハイクは、自由詩ですから。

 

光陵高校文芸部の皆さん、宮﨑先生、ありがとうございました!

またお邪魔していいですか。


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