投句された中より、きらりと光る佳句を紹介して参ります。
ナビとの会話もね 杏里
お題の上の句と並べます。
車の運転楽しいね
ナビとの会話もね
昔、カーナビの声を聞いたお年寄りが、リアルタイムで話していると思っていたという話を聞きました。つまり、
誰かがどこかで、ずっと見守ってくれている
と考えていたこと。それはとても素敵ですが、さすがにそれはありません。
この句を読んだ時、そのエピソードを思い出しました。
運転をしていると、無意識にナビの声に返事していることがあります。ナビが提示した道を「そんなことはない」とひとりごち、自分が信じた道を選んで、それが間違っていることもあります。
この句の見事なところは「ひとりで運転している」ことを「ひとり」という単語を使わずに表現しているところです。「車の運転楽しいね」とくると、普通は助手席や後部座席の恋人や家族と一緒にいて「楽しいんだろうなあ」と思うわけですが、まかさの、ひとり。
さらに「ナビと会話する」という「一人でも寂しくないもん!」という、可愛い強がりも感じ取ることができます。そうなると上の句の感じ方も変わってくる。「車の運転楽しいね」というのは、ドライブが楽しいというのではなく、純粋に車を動かすという作業が楽しいんだな、この人は。と思えてきます。
確かに、宮治師匠のお題は「ドライブは楽しいね」ではなく「車の運転楽しいね」です。この下の句は、上の句をしっかりと読み込んで結ばれた句になります。
佳句は、一つの表現で、たくさんのことを感じさせてくれます。